借地非訟手続と増改築禁止特約等
借地非訟手続と増改築禁止特約並びに無断増改築禁止の特約違反に基づく解除についての記事がありましたので掲載します。
借地非訟手続と増改築禁止特約等
昭和41年の法改正により借地非訟手続が採用されました。
その中で、土地賃貸人が無断増改築禁止特約に基づき、増改築の承諾をしない場合に、借地人は土地賃貸人の承諾に代わる裁判所の許可を求めることができるという制度ができ(借地8/2)、借地借家法17条2項にもこの代諾制度が引き継がれています。そこで、借地権者が増改築許可の裁判を経ないで、土地賃貸人に無断で増改築を行った場合、この手続を経ないことが解除事由に影響するかが問題となりました。
この点、学説は従来より解除が容易に認められるとする考え(鈴木・借地下735等)、変わらないとする考え(星野・借地借家137等)、従来より一層解除権の行使が制約されるとする考え(加藤・判時392・8)に分かれています。
判例には、解除権の行使を制限するものは見当たりませんが、代諾制度を利用していない場合には原則として解除できると判示したもののほか(新潟地長岡支判昭43・7・19判時53・67)、代諾制度の許可を得ずして借地上の建物を改築しても信頼関係を破壊する。
ものとはいえないとした判例もあり(東京地判昭63・5・3182)、代諾制度を経ていない増改築による解除も「信頼関係破壊の理論」を基準として、ケースバイケースで判断していくしかないと考えられます。
無断増改築禁止の特約違反に基づく解除
無断増改築禁止の特約違反に基づく解除について判例を概観すると以下のとおりです。
解除が認められなかった事例一信頼関係が破壊されていない場合として、建物の同一性を損なわない場合中判)、増築が新たな建物を築造したものと同一視されるものでないこと、建物の命数を不当に伸長し、建物の買取価格を不当に増大したものでない場合(東京高判昭42・9・1839、賃借人側の相当な必要性に迫られてしたものであり、かつ、本件増改築部分自体仮設的な建物であって容易に除却できる場合(東京高判昭52・2・24→判4)、増改築工事が本来土地の通常予想し得る利用方法の範囲内であり、エ事に着手するもその完成前に中止して、土地賃貸人の承認に代わる許可の裁判を申し立て、適法手続に依拠している場合(東京高判昭57・1・285)があります(その他、水戸地判昭54・3・164判9、福岡地判昭59・7・4%判19、東京地判平19・8・28-4判など)。「他方、解除が認められた事例一信頼関係が破壊されている場合として、裁判上の和解で定めた無断増改築禁止の特約に反した場合(東京高判昭47・9・20~判6)、借地人が増改築許可の裁判を経ないで建物増改築をした場合(東京高判昭59・4・26判時1118・186、大阪地判昭51・3・29判)及び借地人が増改築許可申立てを行ったが、許可がない状況下で、増改築をした場合(東京地判平19・3・28判8)があります。
結論
以上から、解除が認められるか否かは増改築の程度、無断増改築に至る経緯、代諾制度の利用の有無、やむを得ない事情によるものか否か、原状回復の可否等を具体的な判断基準としつ、貸借人に対する信頼関係が破壊されたか否かによって決せられています。
増改築等禁止特約と信頼関係の破壊
増改築等禁止特約に違反して信頼関係を破壊するおそれがあると認められる修繕とはどのようなものか
(東京地判平27・5・13(平24(ワ)23294))
事案の概要
貸主Xと借主Yは、Xが所有する土地(以下「本件土地」という。)について、平成3年5月30日、建物所有目的で、期間を20年、Xの事前の承諾なく借地上の建物につき増新築・改築大修理等を行った場合にはXは無催告解除ができるとの特約付きの借地契約(以下「本件借地契約」という。)を締結した(法定更新)。Yは、本件土地上に建物を建築した(以下「本件建物」という。)。
平成21年8月頃、Yは、事前にXの承諾を得ずに本件建物の西側壁面及び西側壁面に近接する北側壁面の一部、南側壁面の一部の合計約19.146㎡と、本件建物の2階部分の屋根及び1階の一部の合計面積約44.03㎡(屋根全体の面積は約112.49㎡)を補修した(以下「本件工事」という。)。
そこで、Xは、Yに対し、平成21年8月28日付の書面で、本件借地契約を解除する旨の意思表示を行い、建物収去土地明渡しを求めて訴えを提起した。
裁判所の判断
裁判所は、以下のとおり判示して、YがXに無断で行った本件工事について信頼関係を破壊するものではないとして、解除を認めず、請求を棄却した。
本件工事は、いずれも本件建物の駆体の取替えに至らず、雨漏りの補修等、通常の利用上、相当な範囲にとどまる。
借地契約の特約において、増新築、改築大修繕を行うときはXの許諾を必要とすると定めている趣旨は、増改築工事により本件建物の耐用年数が大幅に延長され、借地権の存続期間に影響を及ぼすことを避ける点にあると解されるところ、認定事実によれば、本件においてYが行った本件工事は、本件建物の耐用年数を大幅に延長させ、借地権の存続期間に影響を及ぼす程度のものということはできない。以上のことからすると、Yは、本件建物につき、Xに無断で壁面及び屋根部分の補修工事を行ったが、貸主に著しい影響を及ぼさず、貸主に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないことから、Xが行った本件借地契約の解除は無効である。
「借地上の建物をめぐる実務と事例」(新日本法規出版)より引用しました
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