1. 借地上の建物の用途変更に伴う財産上の給付(判例)
借地上の給油施設を自転車販売店舗に変更する場合、借主はどのような財産上の給付を貸主に支払わなければならないか
(大阪地決平30・1・12判タ1448・176)
判旨
本件借地契約は当初より堅固建物所有目的であり、建物の用途・規模が変更されたものであるところ、使用容積等の観点から更地の最有効使用を実現するものではないこと、その他各事情等から、財産上の給付として、更地価格の6%の承諾料が適正である。
事案の概要
借主Xと貸主Yとの間では、以下の内容の本件土地の借地契約が存在する。
- 契約締結日:昭和38年10月15日
- 保証金:2,000万円
- 存続期間:契約締結後30年
- 契約の更新:平成5年10月15日
- 現存建物
- 種類:給油所
- 構造:鉄筋コンクリート造一部鉄骨造陸屋根2階建
- 規模:高さ6m2階建
- 用途:事業用(給油販売所)
裁判所の判断
本決定は、以下のとおり述べ、Yに2,500万円を支払うことを条件に、借地条件の変更を認めた。
1 本件申立て
まず、本件借地契約の最終更新が平成5年10月15日であり存続期間は同日から30年間であるから、いまだ相当の借地期間が残っていること、Yにおいて近い将来自ら本件土地を使用する必要等のその他正当事由があることの指摘もないことから、一定条件の下で、本件申立てを認容するのが相当である。
2 借地条件変更に伴う承諾料
承諾料については、鑑定委員会が査定した更地価格に違法又は著しく不相当な点は見当たらない。
借地条件の変更の場合、承諾料は当該借地の更地価格の10%相当額を原則として、固有の事情を考慮して適宜増減していること等長年の裁判例の積み重ねにより借地非訟の実務慣行とされているとの文献による指摘もある。しかし、これは東京地裁を中心とした関東地方の実情であって、大阪地裁管内で必ずしも妥当しない。そのため、当裁判所が判断の根拠とできるのは、大阪府内における不動産取引に精通した鑑定委員により判断された鑑定意見書によるべきである。
鑑定委員会は、条件変更承諾料は、非堅固建物所有目的の契約を堅固建物所有目的の契約に変更する場合が典型的であり、その場合の目安が更地価格の10%から15%とされていたのに対し、本件借地契約は当初から堅固建物所有目的であり建物の用途・規模が変更されたものであること、現存建物自体は小さいがガソリンスタンドは構造物と一体となって敷地全体を利用するという特徴があること、建築予定建物は1階がピロティー構造で店舗床は2階、3階のみであること、いずれの建物も使用容積等の点から更地の最有効使用を実現するものではないことから、条件変更による収益性の向上は、戸建て住宅をビルに建て替える場合とは異なること、増改築承諾料が更地価格の3%から5%程度が目安であることから、本件では更地価格の6%が適正であるとして、2,210万円と判断している。
3 地代増額及び追加保証金
現行地代が地域の水準に対し著しく不相当となっているわけではなく、増額は必要ない。
次に、Xは契約時一時金2,000万円を差し入れているところ、かかる一時金で建築解体費用・賃料不払等はおおむね担保されているものと判断でき、保証金の増額は必要ない。
4 当事者間の利益調整
裁判所としては、承諾料2,210万円、地代増額及び追加保証金は不要とする鑑定委員会の意見は相当であるが、将来の紛争予防の観点から、承諾料2,500万円、地代の増額(鑑定委員会が算定した積算地代)を採用する。
「借地上の建物をめぐる実務と事例」(新日本法規出版)より引用しました
2. 借地上の建物の朽廃
借地上の建物が朽廃し新築禁止特約違反の建物のみが残っている場合に借地権は消滅するか
(東京地判平2・9・27判時1391・150)
1. 判旨
貸主の承諾等の特段の事情のない限り、当事者間で借地契約の目的として合意されていた建物が朽廃すれば借地権も消滅するものと解すべきである。
また、かかる特段の事情のない限り、新築禁止特約に違反して建築された建物は、旧借地法6条2項の「建物」にも含まれないと解すべきである。
2. 裁判所の判断
本判決は、おおむね次のとおり判示して、旧建物朽廃による借地権消滅を認め、請求を認容した。
前記の状況からすれば、旧建物は、Yがその建替えをXに申し入れた平成2年3月には、時の経過により既に建物としての効用を完全に失っていたというべきであるから、遅くともその時期には朽廃していたものと認められる。
もっとも、この場合であっても、本件借地上にはYの所有する新建物①~③があり、Yによる本件借地の使用が継続していることから、旧建物の朽廃により本件借地権が消滅するのか、消滅するとしても、Yの本件借地使用継続に対するXからの異議において、建物が存在することを前提に考えるべきか(旧借地6②)を検討する。
まず、本件新築禁止特約は契約自由の原則の範囲内のものとして有効である。
そうすると、建物の朽廃による借地権の消滅の成否は、当該借地契約において借主が貸主に対し借地契約の目的ないし基礎として主張することができる建物についてこれを判断すべきである。
すなわち、建物の新築についての貸主の承諾、その他新築建物を借主が貸主に対し借地契約の目的として主張し得る特段の事情のない限り、借地権は、当事者間で借地契約の目的として合意されていた建物が朽廃した場合には消滅するものと解すべきである。
また、借地の使用継続による法定更新に関しても、かかる特段の事情のない限り、新築禁止特約に違反して建築された建物は、旧借地法6条2項の「建物」に含まれないと解すべきである。
本件では、新建物の新築は、Xの明確な異議を無視してなされたものであり、YがXに対しこれを借地契約の目的として主張することができる特段の事情は存在しない。また、新建物②及び③についても、Yは貸主の承諾を受けていないことを十分承知の上で建築したものと推認することができ、借主であるYが貸主に対しこれを借地契約の目的として主張し得る特段の事情は認められない。
そして、XはYからの旧建物の建替えの申入れ後直ちに本件訴訟を提起しているから、XはYの土地使用の継続に対し遅滞なく異議を述べたと認められる。
したがって、Yの本件借地に対する借地権は、旧借地法6条にて更新されることはなく(「建物」がないのでXの異議に正当事由は不要)、旧建物の朽廃により消滅したものというべきである。
「借地上の建物をめぐる事例」(新日本法規出版を引用)